A:魔貝の悪鬼 オニユメミ
ひんがしの国では、少しでも大きい個体が現れると、なんでもかんでも「鬼」と名付ける向きがあるんだ。「オニユメミ」も、その一例といったところか。
ただ、オニユメミが鬼と呼ばれるのは、大きさもさることながら、凶暴性に由来しているようだ。不用意に近づくと、ビリっと雷気をくらって失神……夢を見ている間に食べられてしまうのだとか。だが、氷結能力を使ってきたという噂もあるのだが……。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
紅玉海にユメミガイというサイズは違うがカタツムリに似た生物がいる。大きさは殻の天辺まで約2mで体調は大きいものでも3m程になる。ウミウシやアメフラシ、ナマコに近い生物で身体構造ガ単純な為か亜種が多く存在し、ほぼ同じ環境の紅玉海で進化したにもかかわらず殻を持たないカラナシユメミという亜種が存在するほどだ。また非常に少数だがさらに大きく進化したダイミョウユメミという種も確認されている。そのダイミョウユメミからさらに進化したのがオニユメミだ。体長は約10m、殻の天辺までの高さは5mを超える。
ひんがしの国では人知を超えた存在や物凄いとか想像を絶するというようなとき「オニ」という言葉を使う。そもそもは伝承や逸話に登場する悪魔のような存在、人外の魔物の呼び名なのだが、そのオニの所業になぞらえて、今では「物凄い」という意味であらゆる事象で使用される。この場合「物凄くでっかくて、物凄く凶暴かつ物凄く恐ろしいユメミ」という意味合いで名付けられているようだ。
このように恐れられているオニユメミだが、原種であるユメミなども含め、ナメクジやカタツムリ同様、全身を使って這いずるように移動するため移動速度が非常に遅い。これは肉食のオニユメミにとっては致命的な欠陥だ。彼らがどのようにしてこの弱点ともいうべき移動速度の速さを克服し、獲物を捉えることができるか、そのヒントは名前にある。
オニユメミは体内に発電器官を持っていて雷撃を放つことができる。この雷撃で獲物を感電させ、そのうちに相手を喰らってしまう。つまり相手が夢を見ている間に喰われてしまうことから「ユメミ」と名付けられたのだという。そのオニユメミに斬りかかった盾役の相方は奴を殴り飛ばすとオニユメミの間合いから飛びさがって距離を取ると嫌な顔をした。
殴り飛ばしたその手応えの無さも去ることながら、あいつの体に触れた得物には粘液が絡みつき糸を引いている。相方はブンッと剣を鋭く振って粘液を払うと構え直した。
「体が柔らかすぎて刃が効かないや」
相方はそう言って様子を見るために、隙を見せないよう体の正面をオニユメミに向けたまま大きく円を描くようにじりじりと動いた。
「ファイジャおねがい!」
相方があたしに向かって叫んだ。あたしは頷くと短く詠唱しオニユメミの背後から前提魔法となるファイガを叩き込んだ。そうする事で更に高温のファイジャが発動できる。あたしはファイガが着弾する前から詠唱を始め、続けざまにファイジャを叩き込んだ。
一体どこからそんな鳴き声が出せるのかはしらないが、オニユメミが炎に包まれギギギギギと鳴き声を上げ悶える。相方はその隙を狙っていた。
「斬るのがだめなら、刺せばいい!」
近くの岩礁をトンットンっと軽やかに踏み台にして高く飛び上がると、真下に剣を構え、全体重を剣に乗せてオニユメミの頭部に落下していった。相方の体重が乗った剣はオニユメミの頭部にその先端が刺さる。一瞬オニユメミの頭部が弾力で凹んだが剣の先が粘膜に覆われた表皮を突き破ったのだろう、刀身の全てが一気にオニユメミの頭部に吸い込まれた。
剣を根元まで刺し込んだ相方はそのままの状態で剣を90度グリッ捻じり、オニユメミの傷を広げ、更にダメージを与えると頭部を蹴って地面に飛び下りた。
「やったか!」
着地した相方が手応えがあったという顔でオニユメミを見上げようとした。
「だめ!逃げて!」
あたしの悲鳴に似た声が相方に届いたと同時くらいのタイミングでオニユメミは天を見上げるように上体を起こした。その瞬間オニユメミを中心に青白い稲光が周囲に炸裂する。
「いやああああ!」
あたしの悲鳴が響く。白く光る雷撃の中で相方の体が硬直し、ガクンガクンと激しく痙攣しているのが一瞬見えた。
閃光がおさまり、辺りに焼け焦げた匂いと白い煙が漂う。その中に体から煙を上げ倒れている相方がいた。あたしは駆け寄って抱き起したが、雷撃をまともに喰らってしまった相方に意識はなかった。
動けなくなった獲物を捕食しようとオニユメミがゆっくりと這いずって近寄ってくる。あたしは所々黒く焼け焦げた相方から目を上げると、オニユメミを睨みつけた。
「‥‥おまえ、生きて返さないからな」
生死の確認もままならないまま相方を優しく横たえると、杖を握って立ち上がった。体が熱くて震える。高まり過ぎた怒りが体の中で荒れ狂う炎のように燃え盛るのを感じた。